第4章 3月。
16歳だといっても、結婚が何かくらいは解っていたつもりなのに。彼の下で甘い声を上げるのは私のはずなのに。
どうしてあの人は、私の旦那様の首に手を回してはしたない声を上げてよがっているの?
どうして賢一さんは、あの人の腰を掴んで何度も自分の腰を押し付けるの?
わからない。
わからないよ!
「ひな人形、飾っておいたよ。唯のお母さんはちゃんと手入れしてくれていたんだね。16年も前のものだとは思えないくらいきれいだよ」
賢一さんの声にハッとする。
「そうですか。見てきていいですか?」
尋ねると頭に大きな掌が乗って「もちろん。僕は仕事に戻るね」と柔らかい言葉が降ってくる。その手にびくりと心臓が跳ねたことに気が付かれたかな。
大丈夫だよね。
賢一さんはいつだって私に優しい。
あの人にしていたみたいに、欲情をぶつけることも怒ることもない。結婚して一年、夫婦だというのに唇にすら触れたことはなかった。