第4章 束の間の休息
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手入れ部屋に入ると、そこにはひたすらに重苦しい空気が漂っていた。
あまりにも予想していた通りで、男の顔には思わず苦笑いが浮かぶ。
いち早く男の存在に気づいたにっかり青江も、男と顔を合わせると肩をすくめて、どうする?これ、と言外に訴えてきた。
どうするも何もなぁ、と男は困ったように頭をかく。
「あー、えっと……どこから説明しよっか…………」
誰かが返してくれることを期待して落とした呟きは、誰にも拾われることなく手入れ部屋に響いた。
ず、と恐らく加州清光のものだと思われる鼻水を啜る音が耳につく。
彼の方へ視線をやれば、部屋の隅で丸くなって顔をうずめながら泣いていた。
………こういうとき、なんて言葉をかけるのが正解なんだろうか。
にっかり青江に助けを求めるように視線で縋れば、彼はふるふると顔を横に振った。
どうやら助けてはくれないらしい。
「あの、さ、」
男は足元をぼんやりと眺めながら、そう切り出した。
視線は少ししか感じないが、こちらに向く意識は多く感じる。
なんだかそれが男と刀剣男士の間に壁を隔てているように思えて、男は切なくなった。
「お前たちが術のせいでああなったって、ちゃんと知ってる。…知ってるから何だ、って話だけどさ………。でも、それでお前たちを嫌いになるとか、そういうのはないから」
男はそこまで言うと、手のひらをきつく握りこんだ。
ゆっくりと息を吸って、吐いて、意識しながら気持ちを落ち着かせる。