第3章 暗れ惑う
それでも男は、だからと言っておとなしく大切なものが壊されるのを待っていられるような人間ではない。
失うことは、ひどく恐ろしいことだ。
男はその恐ろしさも、喪失感も、言葉にできない悲しみも知っている。あんな想いをするのは、もう二度とごめんだ。
けれど、もし彼らにもそんな想いをさせてしまうのかと考えると、男は踏み出すのを躊躇った。
「こちらとしては、あの歴史修正主義者を易々と野放しにはしておけません。が、今貴方を失うこともこの本丸が存続不可になることも、こちらとしては困ります。なので、ここは彼らの意見に従っていただきたい」
淡々と、役人は一期一振と三日月宗近を一瞥しながらそう言った。
その発言に我慢できず立ち上がり刀に手をかけたへし切長谷部を、にっかり青江が止める。
「止めるな」
「だめだよ、君がここで刀を抜いて困るのは主だ」
「…っだが!」
「長谷部、俺は大丈夫だから」
男は念をおすように、な、と言ってぎこちない笑みを浮かべた。
へし切長谷部はその笑みを見て、大人しく腰を下ろす。
そうだ、今は内側で揉めている場合じゃない。
「…分かりました」