第3章 暗れ惑う
「では、落ち着きましたら報告書の提出をお願いします。しばらくの間、日課は免除いたしますので、刀剣男士もあなたも心身を休めてください」
「お気遣いありがとうございます」
「また、今回の件を受け上とも相談し、見習い制度を一から見直します。どうなったかは雪様に一番に報告させていただきます」
「はい」
「今回の件に関しましては、我々の責任でもあります。申し訳ございませんでした。後日お詫びの品をお送りします」
男はそれには答えず、ただ曖昧に作り笑いを浮かべた。
「では、我々はこれで」
「ゲートまで送ります。国広」
男の呼びかけに、山姥切国広は腰を上げ男とともに役人を見送りに行く。
ゲートまで見送り、役人の姿を目視できなくなったところでゲートを閉めた。
「もう、いいぞ」
ゲートの前で、山姥切国広は普段と何も変わらない声でぶっきらぼうに言い放った。
男はその瞬間、我慢していた全てが己の中から溢れでるのを感じた。
山姥切国広に縋るように抱きつき、その肩口に顔を埋めて、何かに耐えるように何度も息を詰めては吐き出しという行為を繰り返す。
運が悪いとしか言いようがなかった。
自分の初鍛刀をあんな形で失い、それでも全員が立ち上がり前を向いて、そうすれば次に待ち受けていたのがこれだ。
あんまりじゃないのか。
神が神に祈るなどとは思うが、それでも祈らずにはいられなかった。
もうこれ以上、俺たちの主を苦しめないでくれと。
そう、祈らずにはいられなかった。