第3章 暗れ惑う
ですね?と聞かれ、男は頷いた。
本当はあんなことがあった後だ。
色んな感情がない交ぜになって、心も身体も疲弊しきっていた。
怒りに身体が震える。後悔の念に飲み込まれそうになる。泣きたい。喚きたい。叫び出したい。現実から逃げたい。
今日一日で、そんなことを何度思っただろうか。
全て投げ出して、全部なかったことにして、もう、自分の使命すら放棄して。
考え出したら止まらない負の思考に、それでも男はまだ腐ってはいなかった。
際ではあったけど、落ちきってはいなかった。
辛うじて、両足で立っている。
頭の中にはずっと、山姥切国広の言葉があった。
彼の初期刀の存在が、仲間だと家族だと言って傍にいてくれる彼らの存在が、男を主たらしめている。
「…見習いは五虎退を返して欲しければ、今日から数えて六日目までに俺一人で阿津賀志山へ来るように言いました」
男の言葉に、その場にいなかった刀剣男士たちは目を見開く。
政府の役人はそれに少しばかり考える素振りをして、男に意見を煽った。