第3章 暗れ惑う
騒ぎをに気づいたのか、幾つもの足音がこちらへ向かってくるのが聞こえる。
いち早く気づいた柚子が五虎退を懐にしまうのを見て、男は必死にもがいた。
体格差が功を成したのか、乱藤四郎の拘束から逃れることが出来た男はこれ幸いと柚子の元へ駆けようとする。
駆けようとして、一段とひどい吐き気が襲ってきて男はその場に崩れ落ちた。
そしてほとんど同時に、主!と男を呼ぶ声が複数した。
「き、さま…!」
「まだ歴史修正主義者がいたのか!」
へし切長谷部と三日月宗近だ。
男は舌を打つ。
最悪のタイミングだ。逃げられてしまう。
ふた振りが刀を手にかけるのを見て、男は叫んだ。
「まて!やめろ!」
「主…?!なぜ!」
今攻撃をしかければ、五虎退がどうなるか分からない。
混乱を極めた頭で、それでもいい方法はないかと脳を働かせる。
しかしそんな努力も無情に、柚子は何の感情も滲ませない表情で告げた。
「五虎退は預かります。返して欲しいのなら、今日から六日目までに一人で来て下さい。場所は阿津賀志山。来なければこの短刀は破壊します」
「ま、まってくれ!たのむ!おねがいだ!」
叫びながら、男はすがった。
けれどそんな言葉は聞いてもらえず、柚子と歴史修正主義者は空間を歪ませ、そして消えた。
「あ、あぁ…ぁぁぁ……」
茫然と、刀剣男士たちは立ち尽くす。
「…っあぁぁぁぁあああ!!!」
男の絶叫だけが、その場に虚しく響いていた。