第3章 暗れ惑う
男は和泉守兼定の言葉に傷む胸に気づかないふりをしながら、再びうめくように言葉を紡ぐ。
「おねがい、します。五虎退を、」
男の頭から、柚子の足が下される。
それは一抹の希望のようにも思えた。
しかし、現実は違う。
何処からともなく、こんのすけがドロンと現れた。
男は思わず顔を上げる。
「審神者様、間も無く政府の者が到着します」
はっと息を呑む音が聞こえた。
男はこんのすけの言葉に固まり、そして次の瞬間歴史修正主義者によって蹴り飛ばされていた。
「あるじ!」
「審神者さま!」
ズシャァ、と身体が地面をすべる。
全身打撲と、あちこちに出来た擦り傷や切り傷が今更になって痛み出した。
男はその痛みに耐えながら、声を張る。
「だめだ!今来られたら…!」
男の主張もむなしく、空間が歪む。
再び襲い来る吐き気に何度もえづきながらも、己を奮いたたせ柚子の元へ向かおうとする。
その身体を、乱藤四郎が正面から止めた。
「主!だめだよ!」
「はなせっ、今あいつらを行かせたら…!!」
政府の者が来るということは、つまりこの本丸の空間を再び開くということ。ゲートを開くということ。
それは歴史修正主義者の逃口を作ることと同義だった。