第3章 暗れ惑う
「あんたっ…、っ!」
和泉守兼定が激情を湛えた瞳で叫ぶ。
しかしそのせいで傷口が開いたのか、次に続いた言葉は苦痛に溺れていた。
「なんで…っ、なんであんたが頭を垂れんだよ…!」
それは和泉守兼定が感じた素直な疑問と、無意識の断罪だった。
彼の前主は、あの土方歳三だ。新撰組の、鬼の副長。
どこまでも清く正しく、己の存在に誇りを持って生きてきた和泉守兼定には、その事実が堪らなかった。
男は和泉守兼定の言葉に、何も返さない。
未だ頭を垂れたまま、手のひらで砂利を強く掴む。
「……っ」
乱藤四郎と今剣が息を詰める。
柚子の細く華奢な足が、男の頭をなじるように踏みつけた。
ぬるりと男の生え際には新たな傷口が生じ、そのために肌を滑る血は不快でしかない。
「…もう、もう、やめてくれ……」
己の主の姿を見ていられなくて、和泉守兼定が懇願する。
分かっているのだ、自分の主がどういう人なのかなど。
理解っているのだ、自分がこの男に惹かれた理由も、男を主と呼ぶ理由も。
こんな、こんな風になってまで自分たちを守ろうとするからこそ、和泉守兼定は男に惹かれてやまなかった。
それでも心はそんな簡単なものじゃない。
全てを詰られ、侮辱されているような気分だった。