第3章 暗れ惑う
「主!」
それは乱藤四郎のものだ。
男が振り返ると、そこには殺気をにじませた少年が立っていた。
そして歴史修正主義者に掴まれている手を見るや否や、駆けて地面を強く蹴る。
跳躍して、その刀の切っ先は歴史修正主義者へと向かっている。
危機を察した相手は男から手を離すと、柚子を抱えて距離をとった。
男の前に、庇うように乱藤四郎が着地する。
「主さん、大丈夫?」
「あ、あぁ…。それより、五虎退が、」
ごこたいが、敵の手に。
男が言葉を発するより早く、乱藤四郎がそれに目ざとく気づく。
距離を開けて立つ柚子は、顔を歪めてまるで泣く一歩手前のような顔をした。
「ごこに何をしたの」
低い声で、乱藤四郎が問う。
「刀に戻しただけ。意識もあるし、記憶だってある。特別なことはしてない」
意外にも、柚子はその問いにきちんと答えた。
柚子のしたことは、審神者である男にもできることだ。
過去に一度、いたずらが過ぎる鶴丸国永にその術をかけたことがある。
たったの五分だけだったが、そのお仕置きは随分と効いたようだった。
まるで今となっては遠い過去のことのようだと、ありふれた日常に思いを馳せながら思う。