第3章 暗れ惑う
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男は一期一振に言われた通り、全速力で走った。
そうしてようやく縁側へ着いた男は、まるで現実味のない光景に呆然とした。
刀と刀が交わる音。焦ったような声。刃が肌を掠め、切り裂き、そこから鮮烈な赤が浮かんだ。
そこにいたのは刀剣男士だけだった。
まるで地獄絵図だ。望みもしない風景がそこに然として存在している。
「あ…、あぁ………」
なんで。どうして。こんなことに。
男はその光景に思わず顔を覆ってしゃがみ込んだ。
あんまりだ、こんなの。なんで、なんでお前らが戦ってるんだよ。
「ちくしょう…っ」
血を吐くような声で、男は呟く。
己の招いた失態だ。
いくら呪いがかかっていたって、こんな事態を避ける方法はいくらでもあった。
けれどそれをしなかったのは自分だ。誰でもない、自分だった。
無力感に苛まれて、もう立ち上がることすら億劫に感じる。
見たくない現実に、嗚咽をあげそうになる。
男は弱いままだった。
審神者について、主となってもう何年も経つのに、どうしたって弱いままだった。