第3章 暗れ惑う
男はギリと歯ぎしりをした。
拳は力が込められすぎていて、白くなっている。
尚も男を抱えたまま応戦する一期一振の体からは、ところどころ血が出ていた。
それでも男の身体には傷一つないのだから、男は悔しくてならなかった。
「一期、下ろしてくれ」
「駄目です」
「…俺なら大丈夫だから」
一期一振の息は乱れていた。
対して、鶴丸国永の方は余裕すら感じる。
当たり前だ。あまりにも条件が違いすぎる。
「……分かりました。ただし、私が降ろしたら全速力で走って下さい。中庭か縁側の方へ行けば誰かいるはずです」
一期一振も限界は感じていたのだろう。
男が譲る気配がないと分かると、そう言って鶴丸国永から距離をとった。
男を降ろし、その背を押して早くこの場から去るように促す。
正直なところ、鶴丸国永を止められる勝算がなかった。
残りの体力のことを考えれば時間稼ぎ程度しか出来ないだろう。
男は言われた通りに走り出し、しかし一度だけ足を止め振り返り言った。
「一期、俺を守ってくれてありがとう」
その言葉に一期一振は目頭が熱くなるのを感じる。
ああ、そんなあなただから。
そんな、優しいひとだから、何としてでも守ろうと誓ったのだ。