第3章 暗れ惑う
「…鶴丸、審神者を殺せ」
ぞっとするほど冷たい声が、その場にいたものの耳に届いた。
男は目を見開き、一期一振は男を抱えた逆の手で攻撃を仕掛けてくる鶴丸国永に応戦する。
練度からしても鶴丸国永の方が上であるのに加え、一期一振は男を抱えたままだ。
圧倒的不利の中にいる中で、さらに秋田藤四郎が戦闘に加わった。
一期一振は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をした後、迷いなく秋田藤四郎へと蹴りを入れる。
体格差も練度も、顕現してからの日数も圧倒的に浅い秋田藤四郎は、その蹴りをまともに受け身体ごと後ろへ吹っ飛んだ。
そのまま壁に叩きつけられ、ずるずると小さな肢体は床へ倒れこむ。気を失ったのだろう。
男は思わず秋田と叫びそうになって、咄嗟のところで呑み込んだ。
己の情けなさが嫌いだ。いざという時に足手まといにしかならない自分が嫌いだ。こんな状況を作り出したのは自分なのに、一期一振を責めてしまいそうになる自分が大嫌いだ。
自己嫌悪に呑み込まれて、叫びだしたくなる。己の不甲斐なさに泣きたくなる。何もできない自分が歯がゆくてたまらない。