第3章 暗れ惑う
「…くる」
男ははっとして柚子の部屋へと視線を戻した。
一期一振が刀を構え直すのを見て、次の瞬間には障子を突き破って刀が、続いて派手な音と共に障子が倒れ刀剣男士が姿を現した。
床に刺さった刀を抜き、そのまま数振り。
男は声が出なかった。
目の前の光景がしんじられなかった。信じたくなかった。
ああ、だって、まさか。
まさか、よりにもよって、己の恋人であるなんて。
容姿はそのままで、美しい瞳だけが違っていた。
飴色に輝くきんいろはなりを潜め、そこにあるのは濁った金色だ。
男の肌を刺すものが殺気だと言うことに気づいた時には、一期一振が男を器用に抱え込んでいた。
「主、無事ですか」
「あ、あぁ…」
一期一振の問いに何とか返す。
本当は無事なんかじゃない。
男の頭の中は混乱を極めていたし、鶴丸国永に殺気を向けられているという事実は男の心を傷つけるに十分だった。
「まさか鶴丸殿と秋田に呪いをかけるとは…。呪具を使ったか」
一期一振が分析するように呟く。
男は鶴丸国永が障子を壊したことで見えるようになった室内へと目を凝らした。
そこには柚子がいて、そのすぐそばに虚ろな目をした秋田藤四郎がいる。
その事実に、泣きたくなった。