第1章 契り
次に男が目を覚ましたのは、鶴丸国永に揺すられてだった。
「あるじ、」
微睡みの中、甘い声が響く。
男はまだ重たい瞼をなんとか押し上げると、近くに美しいかんばせがあって反射的に手を伸ばした。
伸ばした先は唇。
すす、と鶴丸国永のぽてりとキスのしすぎて紅く腫れたそれをなぞれば、緩やかな快感に鶴丸国永は睫毛を震わせた。
なんだか、昨日より鶴丸がかっこいい。
男は夢心地のまま、ふふ、と笑う。
「こーら、俺で遊ぶんじゃない」
鶴丸国永は蜂蜜のように甘い声で言ってから、男の指を掴み口に含んだ。
かじかじと甘噛みを繰り返していると、男が肩を震わせて小さく笑う。
「つる、くすぐったい」
くすくすと耐えきれずに溢れる声が、少し掠れている。
男は別段気にならなかったが、鶴丸国永は男の指を噛むのを止めると、頭を撫でてやった。
まるで愛撫のように髪に触れるから、男は昨日の夜与えられた快感を思い出してふるりと震えた。
「おはよう、主」
宝物を見つめるみたいに、大切なものを慈しむように。
静かな朝の、若緑の葉から落ちる露のような一瞬の切なさと、いつの時代にだって変わらないその美しさに囚われてしまったように。
鶴丸国永が男を見つめ、囁くから。
ああ、幸せだなあ、と。
なんどもなんども、しあわせの味を噛みしめることができるのだ。