第1章 契り
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男が目を覚ますと、目の前は胸板だった。
はて、どうして目の前に胸板があるのか。
男は寝起きでまだふわふわとした意識のまま考える。
昨日の夜はどうしたんだっけか、と記憶を辿り、赤面した。
そうだ。そうだった。
鶴丸国永と、夜を共にしたのだった。
恥ずかしくてきゅうぅと喉が鳴る。
あほか、初めてじゃあるまいし。いや、抱かれたのは初めてだけど。
だめだ、死ぬほど恥ずかしい。
男はぐりぐりと鶴丸国永の胸に頭を擦りつけた。
すると、くすぐったかったのだろう。
鶴丸国永がううんと呻き、男を抱きしめる力を強めた。
「ぅわ、ちょ、」
思わず抵抗の声を上げるも、再び頭上から聞こえてきた穏やかな寝息にまあいっかとそれを甘受する。
部屋には太陽の陽が差している。
しかし日中のものほど鋭くはない。
朝であることは間違いないのだが、果たして何時くらいなのか。
男は瞳を閉じて耳をすます。
まだ、生活音はしていない。
短刀のはしゃぐ声や、食事係の声もしなければ、朝餉の匂いもしない。
よほど早い時間なのだろう。
もしかしたら三日月宗近や鯰尾藤四郎は起きているかもしれないが、それ以外の刀はまだ寝ている時間だ。
となると、男が眠りについてからそれほど時間が経ってないということになる。
男はまだ惰眠を貪っていたいと、再び瞼を下ろした。