第3章 暗れ惑う
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見つかった。見つかってしまった。まずい。どうしよう。むりだ。殺される。
逃げなければと思うのに一向に足は動かない。足どころか、息さえろくにできない。
頭の中でアラームががんがんと鳴り響く。一瞬一瞬が、まるでスローモーションのように男の目に映る。
初めて見る。歴史修正主義者。
だめだ。たえられない。
ひどい穢れに、先程とは類の違う吐き気がこみ上げる。
体温は馬鹿みたいに低いのに、手のひらはひどく汗ばんでいた。
恐怖からか、嫌悪からか、歯の根が合わず音を鳴らす。
歴史修正主義者の鈍く光る瞳が、男の姿を捉えた。
いやだ、死にたくない。殺されたくない。助けてくれ。
ーーーーくにひろ。
刀が振り落とされる。こんのすけが叫んだ。
むりだ。間に合わない。
男は覚悟して、きつく目を閉じた。