第1章 契り
「あるじ」
鶴丸国永が、男を呼ぶ。
こつんと額同士をくっつけると、欲を滲ませた掠れがかった声で呟いた。
「あんまり、煽らないでくれ。優しくできなくなる」
いつもの鶴丸国永からは想像できない余裕のない姿に、男はきゅんと心臓が縮むのを感じる。
かっこいい。
俺は、今から、こんなかっこよくてかわいい人に抱かれるのか。
ちくしょう、本当、抱かれてもいいなんて思う日が来るなんて思わなかった。
もっと知りたい。もっと見たい。
俺の知らない鶴丸が暴かれるこの瞬間が、たまらなく幸せでくすぐったい。
男は鶴丸国永の首に手を回すと、羞恥もぜんぶかなぐり捨てて、とびきり色っぽい声で囁いた。
「めちゃくちゃに、して」
どこの安いAVだとも思わなくはないが、それは男の本心だった。
緊張はしている。
けれど、はやく自分の中を鶴丸でいっぱいにしたい。
鶴丸国永はかあっと顔を赤くさせると、くそっと呟いた。
それからはあっと言う間もなく、唇を塞がれ、着流しの合わせ目から手が入れられる。
胸を弄られて、くすぐったさに笑いそうになってしまう。
しかしそんな男の余裕は、口内に入ってきた鶴丸国永の舌であっという間に絡め取られてしまった。
男の呼吸ごとすべて奪ってしまうような激しいキスに、下半身が重くなる。苦しさに涙が浮かぶ。
「んっ、……はぁ、ふ…」
吐息に混じって、声が漏れる。
鶴の口んなか、熱くてきもちい。
歯列をなぞられ、上顎を擽られ、それからぢゅっと舌を吸われた。
びり、と快感が背筋を駆け上がる。
二人の唾液が混じり合って、飲み込めなかった分が口の端からこぼれていく。
少しして鶴丸国永の唇が離れて、男は上がった息を整えるために酸素を取り込んだ。
男の息が平常どおりになると、鶴丸国永は男の耳に近づけて囁く。
「煽ったのは、きみだからな」
まるで息を吹き込むように言われた言葉に、男はうっとりと快感に身を委ねながら小さく頷いた。