第1章 契り
「つ、つるは、緊張してねぇの?」
このまま進むにはまだ心の準備ができていなくて、男は慌てて言葉を紡いだ。
鶴丸国永はそれにきょとんとして手を離し、次いで男の手を自分の胸元へと持っていく。
とく、とく、とく
一定に指に伝わる僅かな振動と、指先から伝わる音。
薄い皮膚の下にある心臓は、確かに早鐘を打っていた。
男は目を丸くする。
「この通りだ。俺だって、きみを前にして緊張しないわけがない」
ふ、と唇の端を上げ、目元を柔らかくして言った鶴丸国永の頬も、言われてみれば確かに色づいていた。
男はこれ以上にないくらい胸がいっぱいになって、涙が溢れそうになるのを唇を噛んで必死に我慢する。
いとしくても涙が出るなんてこと、男は鶴丸国永を好きになるまで知らなかった。
そんな男に気づいて、鶴丸国永は更にかんばせを綻ばせる。
先よりも目尻が下がって、まるで花が咲いたかのように綺麗に愛らしく笑む姿は、男の目にはもう天使にしか映らない。
ああどうして自分の語彙力はこんなにも低いのか。
男の中での最上級の褒め言葉が天使なのだから、他に表しようがないことが悔しくてならない。