第12章 硝煙
「干渉していたって…」
「といっても、ある程度の規模でないと歴史は変わらない。正しい歴史であろうと補正がかかるからな。それでもそう何度も干渉されると、矢張り少しずつ歪みが出てくる。その歪みを直すのに手間取った」
「そこまで柚子ちゃんが動いていたのに、俺も含めた政府側は誰一人きづかなかった」
「それ程彼女は、側から見れば普通だったということだ。そういう側面を、少しだって見せなかった。後は思い込みだな。まさか審神者見習いが歴史修正主義者のはずがない、と。彼女は愛想もよく、真面目だったと聞く。ハロー効果もあったんだろう」
白城の言葉に、男は柚子が来た日のことを思い出す。
たしかに、そんな素振りは本当に少しだって見せなかった。
男だけならともかく、刀剣男士だって始めは気づかなかったのだ。仕方がないで済ませるべきことではないが、誰も彼女の違和に気づけなかったのであるならばどうしようもなかったということだろう。
ふいに風が吹く。
風は男の頬を撫でるように掠めた。男は目を細めて、空に浮かぶ月を見つめる。
白城が最後の一口だ、と残った日本酒を飲み干すのを見届け、どちらからともなくその場はお開きになった。