第12章 硝煙
なによりも失うことを恐れていた。
失う苦しみを男は知っていたから。
情けない姿ばかり見せてきた。
何度も間違った選択をしてきた。
取り返しのつかないことだってした。
それでも、男はずっと諦めなかった。
薬研藤四郎が折れてしまった時。
この本丸が奇襲された時。
五虎退が連れ去られてしまった時。
どんな時だって、刀剣男士を諦めたりはしなかった。
それは男の強さだ。
折れそうなくらいしんどい時、その瞬間を堪えそこから一歩踏み出すことができるのは、紛れもなく男の強さだ。
でも、それが出来たのは、いつだって一人なんかではなかったから。
男のそばには彼らがいた。
だから頑張れた。強くなれた。
そんな姿を見て影響を受けたのは刀剣男士たちである。
その姿を見て自らも強さを欲した。
そして、それは確実に彼らの実力となって身についた。
男は溢れかえるこの気持ちになんと名前をつけよう、と考えて辞めた。
ふ、と口から空気が漏れる。
なぜだか、声を出して笑ってしまいたいような、そんな気分だ。
いつの間にか男の膝の上を小夜左文字から変わり秋田藤四郎が座っていた。
男は秋田藤四郎を後ろからぎゅーっと力一杯抱きしめ高らかに言う。
信じてるよ、俺の刀たち。
喜色に満ちた彼らの表情が物語っていた。
たったそれだけで、自分たちはどこまでも強くなれるのだと。