第12章 硝煙
咳払いを一つして取り直したへし切長谷部が立てた予定はこうだ。
とりあえず今日も出陣はなし。遠征は近場で済ませようとのこと。
本丸が完全に修繕されたわけではないので、手が空いてるものは各々その修繕に当たること。
引き続き、白城の式神が力を貸してくれるらしい。
おそらく、今日で修繕作業は終わるだろう。
男は体調と霊力を万全に戻すのに努めながら、始末書やら報告書やらなんやらの書類仕事が溜まりに溜まっているので、しばらくの間は机に齧り付く状態になる。
へし切長谷部が予定を確認し終えれば、白城が改めて現在の状況整理とすべきことを説明した。
とにかく今日から数えて四日後までは、気が抜けないということ。
明日からの三日間の出陣で、刀剣男士たちは敗北も撤退も許されなくなる。
一度聞いてはいたが、矢張り緊張が走る。
敗北も撤退も許されない。
そういう状況下におかれ、数日間緊張感に晒された中でいかにいつも通りに動けるのか。
ごくり。何振りかが唾を飲む。背筋が伸びる。身が引き締まる思いだ。
分かりやすく緊張した男と刀剣男士を見て、白城は高らかに笑う。
「そんなに緊張してちゃあ、勝てるもんも勝てねぇってもんだ」
確かにそうではある。
頷く男に、鯰尾藤四郎が立ち上がり言った。
「たしかに、そこの審神者の言う通りですし?主さん、大丈夫だって。俺たちは強い。なんたって、主さん自慢の刀ですからね!」
得意げに胸を張る鯰尾藤四郎から、緊張が解けていく。
緊張感がないわけではない。けれど、いい緊張感だ。
一期一振が続けた。
「主殿、我々は負けなどしません。折れもしません。慢心ではなく、事実です。なぜなら本当の強さを知っています。あなたが教えてくれた」
刀剣男士たちが強く頷く。
男の周りに風が吹いたような気がした。
それは、希望の風だ。