第12章 硝煙
「あるじ?」
黙り込む男を心配げに、鶴丸国永が下から顔を覗き込む。
その表情が、よほど頼りなかったのか、鶴丸国永は男の両腕を取って困ったように笑った。
「あーもう、きみ、なんて顔をしてるんだ」
「……わかんねぇ」
「そんな顔をするくらいなら、泣いて仕舞えばいいのに」
「ばか、泣かねーよ」
言ってから、くしゃ、と顔が歪む。
「泣けねーよ」
本当に、泣いて仕舞えたら楽だったのだと思う。
けれど何故か、泣いては駄目だと強く感じた。
泣いてしまえば、なにか大切なことをなくしてしまいそうで、忘れてしまいそうで。
そんな男を見かねて、鶴丸国永は男の両腕を離し、両手を広げて笑った。
「あるじ、おいで」
言われて、男は鶴丸国永の懐に飛び込む。
「ははっ、まったく、困った主だなぁ」
笑って男の背中をぽんぽんとあやす様に叩く彼の胸板へ額をぐりぐりとすり寄せれば、途端男を包むのは鶴丸国永の匂いだ。
その匂いに、優しい手つきに、余計に泣きそうになる。
懐かしさと安堵と、途方もないさみしさに溺れそうだった。
そうか、俺は、さみしいのか。
理解した途端、せり上がってくる感情に、柚子のはにかみが脳裏をよぎった。
ああ、きっとあの笑顔は、赤く染まった頬は、本当だった。
それがなにを意味するのか、理解できないわけではない。
ああ、ほんとうにーーーーー、