第12章 硝煙
「つるまる、こっち」
男は鶴丸国永の手首を掴んで、縁側に座らせる。
疲労回復は手入れや応急処置にくらべ、霊力をあまり消費しないのが救いだ。
「雪、このまま置いておくのはあまりに可哀想だ。部屋に運んでも構わんか?」
ゆっくりと丁寧に、鶴丸国永の疲労を取り除き霊力を流す。
そんな男の様子を見つめながら、白城が問うた。
男は作業を続けながら答える。
「俺もそうするつもりでした。一番近い空き部屋にお願いしてもいいですか?国広」
「ああ、分かった。こっちだ」
山姥切国広に案内を任せてしまえば、自然とその場は鶴丸国永と男の二人ばかりになった。
疲労の回復にそれほど時間を要することはないので、そうこうしているうちに終わる。
「どうだ?一応軽傷だったから、こっちで傷も治しておいたんだが。気になるとことかないか?」
「あぁ。だいぶ身体が軽くなった。助かるぜ」
上機嫌に礼を言う鶴丸国永に、男は黙る。
どうして、さっきから、こんなに離れたくないと思うのだろう。
自分でも理解できない、抑えようのない気持ちが溢れて、男は困惑した。
柚子の死を目の当たりにしたからだろうか。
柚子が戦う理由が、どうしようもないものだったからだろうか。
彼女の境遇が、あまりに可哀想だと思ったからだろうか。
まるで、何か心がかけているような、そんな虚無感と寂寥感が同時に襲いかかってくるような心地になる。