第12章 硝煙
「主、その遺体なんだが、燃やすのを少し待ってほしい」
ずっとなにか言いたげにしていた鶴丸国永が、ようやく口を開く。
男はそれに首を傾げた。
「構わないけど、あんまり長くは置いてやれねぇぞ」
「少しでいい。どうか、彼女の妹を一緒に燃やしてやって欲しいんだ」
柚子を見つめたまま、鶴丸国永は男に乞うた。
妹、という単語に、男は声をあげる。
「えっ、妹がいるの?」
「あぁ。まだ、生きてる。十にも満たない子どもだ。彼女に、殺してほしいと頼まれた。約束したんだ。その子を連れてくるまで、待ってくれ」
「いや、でもなぁ…。場所は分かってるのか?現世なら申請を出してからでないと行けないし、騒ぎになる。仮に阿津賀志山の柚子ちゃんたちが基地にしていた場所だったとしても、俺は正確な場所は覚えていないし、一人で行くことに許可はできない」
男が正論を言えば、鶴丸国永が口を噤む。
鶴丸国永は賢い刀だ。
それは千年という時の流れがそうさせたのかもしれないし、彼本来の性質であるのかもしれない。
だから、こうして鶴丸国永が男に正論を食らう姿など、山姥切国広からすれば珍しいものだった。
きっと、分かっている。
分かっていても、言わずにはいられない。そうしてやりたいと思う。
それが、ひとのこころと言うものだ。