第12章 硝煙
「他のやつらは先に休ませた。傷がひどいものだけ、手入れ部屋で今夜は休息を取るようにと言ってある」
男の初期刀はそう言うと、視線をそっと柚子へと移した。
切れ長の美しい瞳が、哀傷を称えている。
ぐ、となにか、複雑な感情が吹き荒れるようだった。
「ありがとう、助かるよ。大変だったろ」
「……本当に、大変だった」
よほど大変だったらしい。
想像はつく。
男が阿津賀志山へと行ってから、今の今まで、指揮をとりこの本丸を取り纏めていたのは誰でもない山姥切国広だ。
一筋縄ではいかない色んなことがあったに違いない。
いつもであれば、それほどでも、と返ってくるだろうに、素直に大変だったと認めるあたりに彼の苦労や疲労が伺える。
「おう、山姥切。久しいな。少しの間世話になる」
「あぁ、あんたは相変わらずだな。概ね蜂須賀から聞いた。あんたの部屋には俺が案内しよう」
「すまんなぁ、頼む。その前に、この遺体をどうするかだな。何も考えていないわけじゃないんだろう?」
白城の問いに、男は頷く。
「遺体は、灰になるまで燃やそうと思って」
「ほぅ、撒くのか?」
「えぇ。海水浴場ではない、綺麗な海を知っています。砂浜が白くて、青い海」
その海は、日本にありながらとても現実離れしたような海だった。
一度だけ、父に手を引かれ連れて行ってもらったきりだが、その情景は覚えている。
天国があるなら、こんなところだろうなと、小さい子どもながらに漠然と思った。