第12章 硝煙
「怒涛の一日だったな…」
本丸に帰ってきた時、日はまだ登り切る前だった。それが今や日は沈み、月が姿を現している。
疲労困憊の身体に鞭打ち、男はさてどうするかと柚子の遺体のそばまで移動した。
「遺体、引き取ったんだな」
白城が横に並び、静かに問うた。
「……余計なこと、でしたか」
「どうだろうなぁ。それには、おれは何とも言えんよ」
遺体を見ても、涙は一滴だって出なかった。
あまりに色んなことがあって、なんだか心が疲れ切っているみたいな感覚だ。
男はまるで現実味を感じられず、ただそれでも、なんとなくもう死んでしまった柚子のそばを離れたくなかった。
「主、」
鶴丸国永が呼ぶ。隣には山姥切国広がいた。
ふたりとも、その顔には疲労が色濃く出ている。
「おう、おつかれさん」
労りの言葉をかけてやれば、きみも、と返ってきた。
数日ぶりの再会だというのに、間に漂う空気といえばとこか気まずいものだった。
仕方がないことではある。
あんなことがあった後では、誰も彼も、自分の気持ちと向き合うだけで精一杯だったはずだ。