第12章 硝煙
「消えませんよ」
まさか返事が返ってくるとは思ってなかった男は、驚いて女性を見つめる。
平然としている、ように見えた。
「彼女は人間です。人間は、消えたりなどしませんから」
正論だ。
けれど、そんな正論が男には嬉しかった。
柚子は、消えずに済んだのだなと実感する。
「あなた方が、そうなるようしたのでしょう。消えないようにと、彼女を救ったのでしょう」
とくになんの感情が込められているわけでもないのに、不思議と冷たくは感じなかった。
救った、と問われればなんと返せばわからない。
それでも、きっとそうなのだろう。
最後、柚子は自ら死を欲した。
「しばらく、日課は免除いたします。十分に休養してください」
「……いや、すまんが十分には休養させてやれない」
立ち上がりこちらに近づいてきた白城が、険しい顔つきで言う。
「白城様」
「この少女について、依頼を受けてから色々調べさせてもらった。数日後の阿津賀志山の出陣で、雪の刀剣男士らが歴史修正主義者と対峙するはずだ。それは、絶対に起こらなければならない事だ。避ける事も、他がするのも駄目だ。歴史が正しく動かない」
「成る程。だからこの少女はこの本丸でないと駄目だったのですね」
「そういうこった。…といっても、すぐに出陣とはいかんだろう。お前さんは限界をとうに超えてるだろうし、そんな状態じゃ満足に手入れも施せんはずだ」
言われて言葉に詰まる。
まさにその通りだった。限界などとうの昔に超えてる。
けれど、限界だからと立ち止まることなどできなかった。