第12章 硝煙
「雪様、よろしいですか」
政府の役人に呼ばれ、男は女性のもとへ近づく。
「この少女が今回の件の首謀者ですね」
「はい」
「元は見習いの、審神者名は柚子。間違いありませんか?」
「ありません」
「本当は生かしておいて欲しかったのですが、仕方ありませんね。遺体の処理はこちらで請け負います」
淡々と女性は続ける。
薄情だと思ってしまいそうになるが、これが政府の役人の仕事である。責めるのはお門違いだろう。
男は小さくため息を吐いて、首を横に降る。
「いえ、遺体については、俺に任せてもらえませんか」
「理由を聞かせてもらっても?」
「まだ17の子どもだ。せめて、ちゃんと供養してやりたい」
「……分かりました。上に伝えておきます」
「ありがとうございます」
女性が端末になにかを入力していく。
その間に、男は再び柚子の方へと視線を向けた。
気づいた女性が、その視線の先をたどる。
「…消えないんだな」
男は思ったことを、素直に口にする。
今まで見てきた歴史修正主義者は、皆霧のように消えていった。薬研藤四郎もまた然り。
柚子がこの世界に存在できない存在であるならば、消えてもなんら不思議だとは思わなかったのだが。