第10章 無知と無垢
「ひとつ、きみに提案がある」
俯いていた男の肩を励ますように二度たたいて、鶴丸国永は柚子の方へ言いながら近寄った。
「この提案を呑むか呑まないかは、きみが決めるといい。きみが決めたことに、誰も否定はしない」
「提案、」
涙をその大きな瞳にいっぱい溜めたまま、柚子は鶴丸国永の言葉を繰り返した。
ああ、と鶴丸国永が肯定する。
「俺に、殺されないか」
その言葉に、男は瞠目した。
咄嗟に意味を理解できず、かすれた母音が口の中で消えていった。
ひどい動揺の中にいる男に比べて、それ以外のものは皆静かに事の成り行きを見守っている。
「つ、るまる…!」
驚きで掠れた声で、男は鶴丸国永を呼ぶ。
駆け寄ろうとしたところを、山姥切国広に止められた。
「なんで!」
「聞いてれば分かる」
そう言われて仕舞えば黙るほかない。
男は口を噤んで、視線をふたりに戻した。顔は思わず険しくなる。