第10章 無知と無垢
男は柚子を見すえる。
「……、政府のものが来れば、柚子ちゃん、きみは間違いなく捕まる。何らかの刑を課されるかもしれない」
時の政府が定めた法律にも、時の政府にも、年齢という概念がほとんどない。
例え未成年だろうが、子どもだろうが、時空を超えたものや歴史の改変を目論むもの、政府への反逆行為を行ったものには、等しく罰が与えられる。
年齢による罪の軽減などないのだ。
「…ふふ、」
男が心配げに言うのに、柚子は笑みをこぼした。
「どうでもいいよ、そんなこと」
ぽつり、呟いた言葉が落ちる。
「どうでもいい」
男はなにも言えなかった。それが彼女の本心であると分かってしまったから。
それでも、諦めて欲しくなかった。
なにを、なんて分からない。
男が言えることでも、願っていいことでも、望むべきことでもないと分かっている。
分かっていても、どうにかして引き留めたいと思った。繋ぎ止めておかないと、とわけもなく思った。
だから、必死に言葉を重ねる。
「どうでもいいなんて、言わないで」
「………」
「ごめん。でも、……でも、やっぱり心配なんだ。君はまだ17歳で、子どもだ。出来るだけ刑が軽くなるように、俺も協力するから」
刀剣男士たちの咎める視線が背中に突き刺さる。
たぶん、やってはいけないことだ。よくないことだ。
何をされたのか忘れたわけじゃない。許したわけじゃない。
でも、男は結果として何も失わなかった。この場においては勝者だった。勝者であるが故の、余裕、なのだろうか。
あまりにも傲慢なのだと、ちゃんと分かっている。
これが優しさなんかではないことも、ちゃんと。
分かっていても、放っては置けなかった。