第10章 無知と無垢
「………」
沈黙が流れる。
男は背に刀剣男士の視線を受けながら、果たして何を言うべきなのかと思案する。
男は柚子が好きだった。
まるで妹のような存在で、それこそ、研修中目に入れても痛くないくらいに可愛がっていた。
大人びたしっかりした子だと思った。けれど同時に、ひどく不器用な子なんだとも思っていた。
人からの愛や優しさを表面では受け取っているように見えて、その実、彼女はきっと戸惑っていた。
まるで、愛情や向けられる優しさに不慣れなように見えた。
たぶん、あれは演技でもなんでもない。彼女本来の姿だ。
だから男は柚子が敵だと知って尚、彼女のことを「柚子ちゃん」と呼ぶし、本気で憎むことも怒ることも、嫌いになることも出来なかった。
「審神者さま」
どろん。
沈黙を破ったのは、審神者のサポーターでもあるこんのすけだった。
現れたこんのすけは、報告です、と男に伝える。
「政府のものが間も無く到着します。念のため応援部隊を連れてくるそうです。戦闘がすでに終わってる場合は、首謀者と思われる者を確保しておくように、と」
「分かった。ありがとう」
こんのすけは自分の役目が終わると、再びどろんと音を立て消えた。