第9章 柚の花は白く
五虎退を連れ去った時だってそうだ。
彼が来たことに、喜ぶ自分と同時に来ないで欲しかったなんて思う自分がいた。
私は、ただ家族と自分のためだけに頑張るって決めていたのに、そう思って今までやって来たのに、そうやって自分の強い意志が覆される恐怖は、なんとも言えないものだった。
本当に追い詰めようと思えばできた。
当たり前だ。地理の有利も戦力も天と地ほどの差がある。
あの人は敵地でたった一人で、出口も分からない。
命をこちらが握っている状況で、例え薬研藤四郎というイレギュラーがいたとしてもこちらの有利に変わりはなかった。
それなのに、逃亡を許してしまったのは、私に迷いがあったから。
「迷ってるうちは、君の望みは叶わないよ」
図星だった。
何をせずとも生きることが許されるあなたなんかに何が分かるんだという憤りと、私があなたのことを好きだから、こんなに苦しんでることも知らないであなたの正義を振りかざさないで欲しいという憎しみ。
負の感情が幾重にも重なって、それは私をどこまでも苦しめた。