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とうらぶっ☆続

第9章 柚の花は白く



なんて不幸なんだと思った。
初めてそこにある現実を聞かされたとき。
妹が産まれ、この小さなただ生きているだけで褒められるような存在が、十もいかないうちに消えてしまうんだと知ったとき。
両親が死んだとき。

私の人生は、なんて不幸で、生きづらくて、なぜこの世界は、こんなにも私たちに優しくないのだろうと。
なんど、なんど思ったことか。

……でも、きっと一番の不幸は。

目を瞑れば瞼に映る姿がある。
家族以外に優しくされるのなんて、初めてだった。
私は、今までとにかく必死で。なんとかして、歴史が戻されないようにと血眼になって方法を模索して。
ようやく見えた光に、すがりつくために。生きるために。
たったひとりの妹と、一緒に笑って泣くために、必死だった。

優しい両親の声がする。もうずっと、耳の奥にこべりついて離れない。
両親が私たちの前からいなくなる前日、父と母が涙を流しながら願ったこと。
どうか。あなた達は、生きて。消えてしまわないで。姉妹ふたりで、幸せになって。お願い。私たちは、あなた達に生きて欲しい。
父と母が、私へと送った最後の願い。

叶えるために、必死だった。
必死になって、気づけば私はここまできていた。
だから、周りを見る余裕なんてなかった。周りの子と同じように生きる余裕なんて、微塵もなかった。

あと少し。ここまでたどり着いた安心感から、私はようやく周りに目を向けるということをした。
目を向けた先が、あの人だった。

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