第9章 柚の花は白く
私には八つ離れた妹がいる。妹は今年で九歳になる。
時が経つのは早い。けれど、まだ妹は生まれて九年だ。
あと数日で、たった九歳の妹と、成人すらしていない私の人生は終わりを告げる。
死ぬのではない。消えるのだ。
私たちの存在が、なかったことになる。
姿形はもちろんのこと、私たち家族がいたという証拠も、軌跡も、すべて。
すべて。すべてすべて、無になるのだ。
人々の記憶からは消え、誰一人として私という存在を知るものはこの世界にいなくなる。文字通りの無。
それがどれほどやり切れなくて、悔しくて、憎らしいかだなんて、きっと他の誰一人として分からない。
絶望には底がないなんて、私は妹が生まれたとき、身を以て知った。
まるで、奈落の底。いや、そこがあるだけ奈落の方がいくらましか。
私たち家族は、間違った歴史の世界線でしか生まれることが許されなかった。
とある歴史修正主義者が変えた一つの歴史でしか、生を謳歌することを許されなかった。