第8章 反撃の烽火
虎の足は、馬に比べると劣りはしたが、それでも人間の足より遥かに早かった。
出くわす歴史修正主義者との戦闘をうまくかわしながらここまで来たが、五虎退はもう重傷だ。虎の身体にもいくつもの傷があった。
男は零ではないが、ふたりに比べればずっと軽傷だ。守られている証拠である。
男は五虎退の応急処置を施して、俯いた。
本丸につながるゲートまであと少しだというのに、その少しが遥か遠く感じる。
早く、と焦れれば焦れるほど、時間は長く感じる。
「五虎退、お前にばかりつらい思いをさせてすまない。あと少し、踏ん張ってくれ」
最後の一踏ん張りだ。
男は五虎退に激励を送る。
五虎退は、自らの手に包帯で短刀を固定し、もうほとんどないに等しい握力で、万が一にも刀が落ちてしまわないようにと処置する。
その白い肌は血で濡れ、満身創痍。けれど、その瞳は微塵も諦めの色を灯してはいなかった。
「主さま、顔をあげてください」
言われて、罪悪感や無力感からつい俯けていた顔をあげる。
「僕、すっごく怖かったです。敵地に一人で、抵抗する術もなくて、このまま…お、折れるんだって思ってました」