第8章 反撃の烽火
「主さま、乗ってください」
「え、あ、はい…」
「馬とはまた全然違うので、振り落とされないよう気をつけてくださいね」
「わ、わかった」
なにがなんだか分からないまま、男は五虎退に従う。
酸素が頭に回ってないのも手伝って、この状況をうまく飲み込めないでいた。
「虎くんに、しっかりつかまっててください。後ろは僕が守ります」
おそらく、五虎退も限界に近い。
それでも決して弱みは見せなかった。
その姿に、励まされる。はっとさせられる。
普段はあんなに泣き虫で、寂しがりやで、怖がりな五虎退が、こんなにも頑張ってるんだ。俺が頑張らなくて、どうする。
自分で決めたのだ。決めたことは、貫き通さなければ。
男はようやく、薬研藤四郎との別離を消化して、今ある現実に向かおうと気合を入れた。
しんどくても、辛くても、一人ではないのならば絶望ではない。
愛しい短刀がつなぎ、護ってくれたものを、無駄になんかしたくない。
何より、大切で大好きなみんながいるあの場所に、帰りたい。帰らなければならない。
「主さま、ふたりで本丸に帰りましょう」
「ああ、そうだな。…虎くんも、頼む」
男は虎の上に跨り、首元を撫でてやる。
答えるように、虎は男の手のひらにすり寄った。