第8章 反撃の烽火
「薬研!」
咄嗟に名を呼べば、薬研藤四郎はその機動をもってして再び男の前に駆けつけた。
男を庇ったせいで、右肩に敵の刀がのめり込む。
男は思わず喉が引きつらせた。
よく見れば、その身体にはいくつもの傷。満身創痍。重症の一歩手前、といったところか。
「大将、そこの牢屋だ!」
薬研藤四郎が敵の刀を受け止めながら言う。
男はほとんど気力だけで起き上がり、見えていた牢屋の中へと体を滑り込ませた。
人の形だとすぐにわかる骨の残骸を横目に、ようやく見つけた五虎退を手に取った。
間違いようもなく男の五虎退だ。
こんな場所にあったのか。
手にしてすぐに、術の強制解除にかかる。
「強制解除、汝我の下に顕現せよ!」
術の反動で頭がぐわんと揺れた。
他人がかけた術の強制解除は、解除する者の身体に何らかの悪影響を及ぼす。
強い吐き気を呑み込んで、五虎退を顕現させた。
「五虎退!」
再び男の目の前を桜が舞う。
姿を現したのは、傷ついたままの五虎退だった。
「主さま!」
「すまん、説明は後だ。ここから出るぞ!」
「は、はいっ」
術をかけられていても、意識はあったはずだ。
何となくではあるが、五虎退も事態を把握しているらしい。
刀を構えたまま、男の後に続いた。