第8章 反撃の烽火
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目の前に桜が散った。
桜をまとって現れたのは、薬研藤四郎だ。
現実でその姿を目の当たりすると、また涙が出そうになった。眉間に力を込め、今は耐えるときだと言い聞かせる。
「…うまくいったな」
男の目の前で、薬研藤四郎は身体の感触を確かめているようだった。
男の懐にあった刀の欠片は、何度も目にした刀本来の姿を取り戻し薬研藤四郎の腰に携えられている。
「よかった」
「大将、さっそくだが」
「ああ、頼む」
話し込んでいる時間はない。
薬研藤四郎が顕現した際、膨れ上がった霊力に何かを察したのか、空気ががらりと変わった。
おそらく、敵はもう気がついている。
ガキン、ガシャン
金属が派手な音を立て、男をつないでいた鎖は外れていく。
「これで最後だ」
言葉と同時、首が後ろにがくんと引っ張られる感覚。派手な音が鳴って、最後の鎖は切られた。
「すまん。枷は外してる余裕がない」
「動けりゃ充分だ。鍵を頼む」
複数の気配と殺気がざわざわと男の肌を刺激する。
もう、敵はすぐそばまで来ていた。