第8章 反撃の烽火
それにも男は頷き返した。
本当は問いただしたかった。
薬研藤四郎は、それきり、もう消えてしまうのかと。
そうしなかったのは、頭のどこかでそうであるのだと確信していたからだ。
薬研も一緒に帰ろう。
言ってしまえば、男も薬研藤四郎も傷つく。だから、聞かなかった。
「作戦は以上だ。万が一はおきない。俺っちが起こさせない。どうか、大将。あんたが無事、本丸に帰れるように」
いつかの見た笑みを浮かべて、薬研藤四郎は言った。
男は掠れた声で、ちいさく「あぁ」と返すほかなかった。
いつまでも一緒にいたい。
このまま、ずっと、薬研がそばにいればいいのに。
過ぎた願いだ。
薬研藤四郎がすでに折れていることを、男は忘れてはいけない。
十分だと思うことにした。じゅうぶんだ。
もう会えないと思っていた薬研と会えた。言葉を交わし、抱きしめた。
窮地を救ってくれようとしている。
最期の最後。薬研藤四郎は、たったひとり、主である男のために尽くしてくれる。
じゅうぶん過ぎるくらいだ。
折れてなお、俺の刀でいてくれたのだから。
ただやっぱり、さみしいよ。