第8章 反撃の烽火
『そうだな…、そういう時は、楽しいことを考えようぜ』
『楽しいこと?』
『ああ。大将が本丸に帰ってからのことだ』
『……たとえば?』
『まず帰ったら、山姥切の旦那に怒られるだろ』
『それ楽しいことじゃねーじゃん』
『まぁまぁ。…今回ばかりは旦那だけじゃねーだろうな。でも、目一杯怒った後で、あいつらは泣きながら言うんだ。無事でよかった、おかえりなさいって』
『………』
『そこからは祝杯さ。歌仙や燭台切、堀川がご馳走を、それこそ机に乗らねーぐらい作る。もちろん、みんなの好物ばかりな。今日は特別だっつって、兄弟には一兄から夜更かしの許可がおりる。本丸中にあるお酒を開けてみんなで飲んだら、大将はそのまま寝ちまって、そんな大将に平野が毛布をかけたら、乱や五虎退、秋田が大将のそばで雑魚寝しだす。そのまま皆んなで広間で寝ちまって、次の日の朝には歌仙が鬼になって全員を起こしに回る。
そんな、ありふれていてどこにでもあるような、でもきっと幸せな日常だ』
薬研藤四郎の言葉通り、男は頭の中でその日常を思い描いた。
『なぁ、大将。日常に戻ろう』
その言葉が合図だった。
男は恐怖と、すこしばかりの悲しみを呑み込んで頷く。
薬研藤四郎は、一緒には戻れない。