第8章 反撃の烽火
35
男が捕まって、早くも数日が経とうとしていた。
柚子は言葉にした通り、男を殺す気はないようで、毎日最低限の水と僅かばかりの食事だけが支給された。
捕まった当初に比べ、体力は落ちている。
何度も心が折れそうになっては、薬研藤四郎に励まされようやくここまできた。
霊力は充分に込めた。五虎退の居場所も、何となくではあるが把握することができた。
柚子や彼女が率いる歴史修正主義者は、男が諦めたと判断したのか、はたまた他のことで忙しいのかは知らないが、徐々に見張りが薄くなり、男一人の時間も次第に増えていった。
やるなら、今日か。迷っている時間はない。
『大将』
頭の中に薬研藤四郎の声が響く。男も口には出さず、応える。
しかし、どうしたって失敗した時のことを想像してしまう。最悪の結末が頭から離れず、男の恐怖心を煽る。
『大将、迷ってる時間はないぜ』
『……、分かってる』
でも、こわい。
だって、男はどこにでもいる一般人だったのだ。ただすこし霊力が多いばかりの。
審神者という職に就いて、いくら戦争の中に身を置いているといっても自らが戦うことはなかった。