第2章 審神者見習い
「よし、主顎あげて」
どうやら漸く決まったらしい。
燭台切光忠が言う通り、くい、と顎を上げれば、襟を立てられそのまましゅるるとあっという間にネクタイが結ばれ、襟が直される。
「主、いい加減自分で結べるようになったらどうなんだい」
それを隣で見ていた歌仙兼定が、呆れたように言う。
「暫くしてないと忘れんだって。それにいいんだよ、光忠がいるし」
な、と男は燭台切光忠に同意を求めた。
しかし当の燭台切光忠と言えば、右手で顔を覆い項垂れていた。
「ほんっと、主ってさぁ…」
「え、なに?」
周りがため息を吐く中、男だけは理解できず首を傾げるも答えてくれるものはいない。
なんだよ、と若干不貞腐れそうになっていると、にっかり青江が大広間にやってきた。
「主」
「お、青江。どうした?」
「そろそろ時間」
そう言うと、にっかり青江は封筒を男に手渡し、それから苦笑いを溢した。
どうやら彼は、一瞬で燭台切光忠らの心中を察したらしい。
「主も罪な人だねぇ」
「ん?何が?」
「いいや、なんでも。それより、」
「あ、そうだ。そろそろ出なきゃまずいか。国広」
「ああ、準備はできてる」
審神者が政府に赴く場合、最低一振りの刀剣男士を護衛で連れて行かなければならない決まりがある。
男が大抵そういう時に連れて行くのは、山姥切国広であった。
準備は出来ているかという意味を含めて名前を呼べば、山姥切国広はしゃきっと背筋を伸ばし返事をする。
男はそれに一つ頷いて、その場にいるもの達に行ってくると告げると、時空移転装置のゲートをくぐった。