第2章 審神者見習い
男は未だにネクタイをどちらにするか迷っている燭台切光忠にうんざりしつつ、文句は言わない。
昨日の夜、「主!明日政府へ赴く時の正装は僕に任せて!格好良く決めるから!」などと輝いた瞳で言われれば無碍にもできないというもの。
張り合う歌仙兼定に見事じゃんけんで勝利を手にした燭台切光忠は、うーんうーんと男からして見れば違いのわからないネクタイを何度と眺めている。もういい加減よくねーか?
男とて身なりには気を使うし、服を見ることも学生の頃から好きであったが、燭台切光忠のそれには到底及ばないだろう。
男は今日何度目かのため息を飲み込んで、ようやく攻防の終わったらしい山姥切国広を見た。
山姥切国広は、結局新しい布に変えられたようでぐったりしている。
落ち込むのではなく、攻防の末疲れ果てぐったりしているというのが男の山姥切国広らしい。
どうせ歌仙には勝てねぇんだから、始めから諦めて渡しておけばいいのに。
以前男がそう言えば、山姥切国広は至極真面目な顔で言った。
俺にだってプライドがある。
どんなプライドだよ、とか、剥がれた方がプライドずたずたじゃね、とか、色々突っ込みたいことはあったが、男は適当に返事をするに留めておいた。
珍しく山姥切国広が酔っていたので、酔っ払いの戯言と片付けるに越したことはない。