第7章 相まみえる
「……薬研は、ずりぃよ」
ぐっと、悔しさに涙が出そうになるのを堪える。
声はひしゃげてしまった。
薬研藤四郎は、ごめん、と困ったように笑っただけだった。
「大将、」
長い沈黙の後、薬研藤四郎が口を開く。
「それでも、俺っちは幸せだったんだ」
男は隣に座る短刀をじっと見つめた。
「最期はあんなだったけど、一緒にいた仲間も、大将すら傷つけちまった俺だけど、それでも、あんたたちが大好きだったんだ」
熱い何かが、男の身体を支配する。
散々泣いた後にも関わらず、涙は次から次へと男を呑み込もうとする。
「あの場所が、ほんとうに好きだったんだ」
薬研藤四郎は、そう言って笑った。
だから、男は涙をぼたぼたと零しながら、こう返した。
「俺だって、俺たちだって、薬研が大好きだよ」
ひぐ、と不細工なしゃくりが二人の間に響く。
「薬研は俺の刀だ。誰のものでも、薬研のものでもない。俺の刀なんだ。だから、俺の刀のこと、そんな風に言うのやめてくれよ。なぁ、どうしたら伝わる?俺は薬研が大好きだよ。大事で大切な刀なんだ。壊れてしまったって、折れてしまったって、ずっとそばに置いておきたいくらい、唯一の刀なんだ」
「……ごめん」
「謝るくらいなら、言うなよ。負けたとか、自分を蔑むようなこと」
「うん、ごめんな、大将。頼むから、泣き止んでくれよ」
「泣いてない」
「まったく、泣き虫だなぁ」
薬研藤四郎はふふ、と笑って、男のことを抱きしめた。
男よりふた周りほど小さな身体は、それでも男にとっていつでもいつまでも頼れるものであった。