第7章 相まみえる
「…軽蔑したか?」
薬研藤四郎は迷い子のような顔で、少しだけ怯えを見せて男に尋ねる。
男は首を振った。
そんなはずはない。軽蔑なんて、するわけない。
「ごめん、大将。俺は、正しくあんたの刀でありたかったのに、結局自分の弱さに負けた」
儚げに笑うその笑顔が、男の胸をぎりりと締め付ける。
暴れ出したくなるような切ない痛みに、違うだろ、と男の中で誰かが叫んだ。
違うだろ。言う資格とか、そんなん、どうでもいいんじゃなかったのかよ。そうして、口を噤んで、お前が手にしたのは結局なんだった。
後悔ばかりだっただろう。
想いは口にしなきゃ伝わんないって、行動に移さなきゃ意味ねぇって、学んだんじゃねぇのかよ。
お前はまた、そうやって後悔を積み重ねていくつもりか。
それは男が生み出した後悔だった。
「っち、がう!薬研は負けてなんかねぇよ!」
「負けたんだよ、大将。だから、堕ちちまった。歴史に介入しようとしちまった。世界が俺を敵だと見なしたんだ。だから、俺が折れてすぐ検非違使が出現した。…俺は、大将の懐刀失格だ」
「薬研が失格なら、俺はなんだよ?俺だってお前の主失格だ!ずっと一緒にいたやつのこと、何一つ気づけなかった。俺は、俺のこと、それなりに上手くやってると思ってたんだ。初めはともかく、慣れてきた頃には幸せだななんて思う余裕だってあった。でも、でも…!」
「主失格なんて言わんでくれ。自分を卑下するっつーのは、俺たちを卑下するのと一緒だぜ?」
薬研藤四郎の言葉に、男は言葉を失う。
そんなことを言われてしまっては、男は何も言えなくなってしまう。