第7章 相まみえる
薬研藤四郎とは、現代では確かに存在していないとされている刀である。
織田信長が所持したのを最後に、行方は分からなくなっている。
炎に焼かれ灰になったのか、それとももっと別の時代に何らかの方法で折れてしまったのか、はたまた海の底で錆びてしまった可能性だってある。
けれど、それすらも全て偽りだったのではないのかと言う説もないわけではない。
元々存在していない刀だったのでは、と。
一度自分の存在を疑って仕舞えば、そこからは崩壊の一途を辿る。
「最初のうちは、気を紛らわせるためだった。考える時間を少しでも減らすためだった。そのために何度も大将に頼んで出陣してた」
その言葉には思い当たる節があった。
「それがいつからか、自分の存在を確かめたいって思うようになっちまった」
男は言葉を飲み込む。
何も言えなかった。言えるはずなかった。
その不安は、男にはどうしたって分からない不安だ。
増してや、違和感に気付きながらも行動に移さなかったあの日の自分がいる限り、何も言ってはいけないような気がした。