第7章 相まみえる
「なぁ、大将。少し、話をしよう。俺っちの話だ。…聞いてくれるか?」
まるでこちらを窺うように下から、男の顔を覗き込み尋ねる薬研藤四郎に、あの日の記憶がフラッシュバックする。
少し肌寒い秋の夜。
縁側に腰掛けて、男は薬研藤四郎とふたりだった。
たしか、夢見が悪かった日の夜のこと。
まるで、あの日の続きをしているみたいだ。
今いるのは男の本丸じゃなくて、秋でもなくて、夜でもない。
季節も時間もないような不思議な空間だけれど、薬研藤四郎が話そうとしていることは、あの日、言えなかったことだ。
「何でもない」と笑って誤魔化した薬研藤四郎を、どうしてあの夜問い詰めなかったのかと何度後悔したか。
やり直せるならやり直したい、だなんて、馬鹿なことを何度思ったか。
薬研藤四郎が折れずにいた未来を、何度想像したか。
「ああ、もちろんだ。…聞かせてくれ」
薬研、あの日、あの場所で呑み込んだ気持ちを、俺に教えてほしい。
置いてきてしまった後悔や不安、ぜんぶ、俺に預けてほしい。
男は少しの不安を押し殺して、薬研藤四郎の手を取った。
安堵したようにため息を吐くその姿に、今度こそはと自らを叱咤した。