第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「主が五虎退を諦めずにくれたこと、本当は嬉しいんです」
戸惑うように、それでいて僅かに喜色を滲ませた声に、大倶利伽羅は大人しく耳を傾ける。
「私は、やはりどうしたって主を選んでしまう。主に五虎退を助けてとは、これから先も言えないでしょう」
「………」
「けれど、五虎退が大切ではないわけでもない。あの子だって私の弟だ。かわいくて仕方がない。出来ることなら。そう思う心が根底には確かにあるのです」
一期一振は、携えている自らの刀をそっと撫でた。
「だから、乱が主に五虎退のことを託したと聞いた時、怒りとともに安堵も覚えました。ああ、これであの子はひとりで、ひとりぼっちで折れてしまわなくて済むのだと」
矛盾した心に振り回される。
そうして安堵しているというのに、一方で主である男の生死を思って怒りや後悔や申し訳なさ、いろんな負の感情が吹き荒れるのだ。
どうしても、自分を責めてしまう。
「…あんたも、乱も気に病みすぎだ」
そんな一期一振の心中を察して、大倶利伽羅は思ったことをそのまま口にする。
「あいつは、乱に言われたから行ったんじゃない。自分で決めて、行ったんだ。乱の言葉があってもなくても、結果は変わらなかったさ」
失うことを人一倍恐れている人。
失う怖さをここにいる誰よりも知っている人。
人より少しだけ、寂しさや孤独に敏感な人。
それが、大倶利伽羅の知る主の一面だ。