第6章 閑話休題:大倶利伽羅
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乱藤四郎と別れてすぐ、大倶利伽羅は背後にずっと感じていた気配に足を止める。
誰かなど想像に容易い。彼らの兄である一期一振だろう。
「何か用か」
振り返って、大倶利伽羅は問うた。
影から姿を現したのは、やはり一期一振だった。その顔色は、とてもいいとは言えない。
「いえ、…あの、うちの弟が、ありがとうございます」
視線は逸らしたまま。
乱藤四郎の瞳の色と似通った髪は、目元に濃い影を落としている。
「礼を言われる覚えはない」
「大倶利伽羅殿にとっては取るに足らないことであっても、あなたの言葉に乱は救われた。…私では、ああは行かなかったでしょうから」
大倶利伽羅が気になっていた刀剣、それが一期一振だった。
彼は責任感が強く、それ故にすべてをひとりで背負ってしまう癖がある。
兄として生まれたがための性。それは、薬研藤四郎が折れた日から、顕著に現れるようになっていた。
自分のせいで。
自らが仕える主を苦しめ、弟たちを悲しませ、弟ひとりの悩みにすら気付けなかった。
大方、そんなふうに思っているのだろう。
大倶利伽羅から言わせれば、その考えこそが間違いで、傲慢だというのに。