第6章 閑話休題:大倶利伽羅
「ボクは、勿論主が大切だけど、ごこだって大切で。けど、それは、刀としてはどうなんだろうって考えちゃって。いちにいなら、薬研なら、平野なら。きっと、…ううん、絶対に、そんなこと言わなかった」
細い肩が揺れる。
さら、と流れる長い髪は、主がきれいだとよく触っていた。
「主には絶対に帰ってきて欲しいよ。当たり前じゃん」
でもね。
涙声のまま、乱藤四郎は続ける。
「ごこにだって、ちゃんと帰ってきて欲しいんだ。だって、ボクの大切な兄弟なんだもん。ごこはボク達のなかでも、いちばん寂しがりやで泣き虫で、怖がりだから。ごこが強いことは知ってる。ボクだって、ごこに沢山助けられてきたから。でも、周りには敵ばっかりで、そんなところに、術をかけられたままひとりぼっちのごこを思ったら、助けてって思っちゃったんだ」
どっちも同じくらいに大切で、選べないボクは、短刀失格だ。
短刀の誉とは、主とする人をいちばん側で守り、最後までともにいることである。
打刀や太刀より、持ち主と過ごす時間は長く、密度の濃いものとなる。それは懐刀であるからで、だから自然、短刀である彼らはどんな状況であれ何をするにも主を守ることを最優先にする。
乱藤四郎もそうである。
きっとどちらかしか助からないとなれば、迷うことなく主である持ち主を選ぶ。
けれどどうしたって心には自らの兄弟のこともずっとあって、後悔こそせずとも、忘れることは一生できないのだ。